鬼常務の獲物は私!?
これまで私がどれくらいのヘマをやらかしてきたのか、常務は知らないのだろうか。
私なんかを連れて行っても、マイナス要因になるだけで、商談が上手くいくとは思えない。
仕事を邪魔してしまう予感に冷や汗が流れ「あの、それはやめた方が……」と断ろうとしたが、高山さんにまで「大丈夫ですよ」と言われてしまった。
「営業と言いましても、景仁会病院、心臓血管外科、新田先生の講演会で、90分の講演を聞いた後にロビー活動をといったお仕事です」
「はあ……」
「名刺の基本的な渡し方くらいが分かっていれば、神永常務に同行されても大丈夫ですよ」
名刺の渡し方……あれ、どうだっけ?
新入社員の時に習ったっきり、活用されることのないその技術に自信が持てない。
しかし、常務に「さっさと着替えてこい」と命令され、ドアを開けた高山さんに誘導されて、私は常務室から出るしかなかった。
3階の更衣室は遠いので、5階のトイレで着替えをした。
グレーの大人しいデザインのこのスーツは、ボトムスが膝丈タイトスカート。
なぜかサイズは私の体にピッタリで、ジャケットの内側に有名な高級ブランドのロゴが縫い付けられているのが気になった。
まさか、神永常務のポケットマネーで、この高そうなスーツを買ってくれたのだろうか?
今日の一度しか、使い道がなさそうなのに……。