鬼常務の獲物は私!?
正面玄関から出ると、営業車が一台、路肩に停車していた。
高山さんは運転席へ向かい、神永常務が後部席のドアを開けてくれる。
「乗れ」と言われて、「あれ……今日はベンツじゃないんですね……」と、つい言ってしまった。
それは、クリスマスイブのデートで乗せてもらった白いベンツのイメージが頭に固定化されていたためで、決してベンツじゃないことを不満に思ったわけではない。
それでも不満に思っていると取られてしまったようで、開けたドアの上部に片腕を乗せた常務は、意外そうな顔をしてから、ニヤリと笑った。
「へぇ、高級志向に変わったのか?」
「あ……そう意味で言ったわけでは……」
「まぁ、いいんじゃないか?
今度、ベンツでドライブに連れて行ってやる。
高山抜きで」
「ドライブデート……」
「俺はお前に贅沢をさせてやれる男だ。
高級志向に変わったのなら、さっさと太郎を捨てることだな」
また、太郎くんのことを……。
常務が開けてくれたドアから、後部席に身を滑り込ませ、悲しく思っていた。
太郎くんは無料でもらってきた子で、血統書は付いていない。
それでも私にとっては太郎くんが一番の宝物で、ペットショップにいる高額な猫たちだって、その想いには敵わない。
お金じゃないのに……高級志向じゃなくて、私は庶民的な女でいいのに……。