鬼常務の獲物は私!?
高山さんの運転で、車は冬の街を走り出す。
営業車の後部席は狭く、車が曲がる際に私の肩が神永常務の腕に触れてしまう。
そういう意味では、広いベンツのシートの方が気にしなくて済むからいいかもしれない。
なるべく触れないようにしようと思い、両手をシートにつき、体を少し持ち上げた。
できるだけ窓際にお尻の位置をずらそうとしたのだが……その魂胆がバレたのか、横目でジロリと睨まれ「俺から離れるな」と命令されてしまう。
さらには、シートについた右手の上に常務の左手が重なり、上から握られてしまった。
驚き戸惑い、常務の横顔を見るが、彼はもう、私を見てはいなかった。
長い足を組み、ホチキス止めされたA4紙の束を膝の上に置いて、右手でページをパラパラとめくりながら読み耽っている。
英語で書かれた文書は私には読めそうにないが、用紙の下に海外の医療機器メーカーのマークが入っているので、仕事のものであることは間違いなく、声をかけられない。
静かな車内で高山さんは運転に集中し、神永常務は仕事に集中して、私は……重なる右手に意識の全てが持っていかれ、心の中でオロオロするばかりだった。