鬼常務の獲物は私!?



ただ手が重ねられているだけじゃなく、指の間に常務の指が入り込み、ギュッと手の甲を握りしめられたり……そうかと思えば今度は、常務の親指が私の手の感触を楽しむかのように、ゆっくりと撫でてきたりして……。

神永常務の隣にいると、私の心臓は過重労働を強いられる。

ドキドキし過ぎて、静かな車内にこの動悸が響いて聞こえてしまうのではないかと、心配していた。


その状況が30分ほど続いて、車はやっと目的地に到着した。

地下駐車場で車から降ろされ、神永常務の手からも解放されてホッと息を吐き出す。

ここは、東京国際会議場。

前を通ったことはあるが中に入るのは初めてで、ホッとした後には物珍しさにキョロキョロしてしまう。

駐車場脇のエスカレーターで1階ロビーへ上がると、3階までの吹き抜け天井の広々とした空間に、感嘆の溜息を吐き出した。

ロビーにはグランドピアノが置かれ、機能的かつデザイン性の高いテーブルや椅子が幾つも配置されている。

飲食店も数店舗入っているようで、その案内表示につい目を止めてしまった。

でも、「行くぞ」と敢え無く言われてしまい、神永常務と高山さんは歩き出す。

ここで置いていかれたら迷子になってしまうので、飲食店の案内表示に背を向け、慌ててふたりの背中を追いかけた。

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