鬼常務の獲物は私!?



「日菜子、どうした?」と、神永常務が私を見る。

「あ、あの……ここにいるお客さんたちは、皆んな講演を楽しみに来ているんですよね? 私にはその気持ちが分からなくて……」


正直に伝えると、常務に笑われてしまう。

その後に端正な顔が少しだけ距離を縮めてきて、声を落として言われた。


「楽しみや興味を持って見に来る奴など、極少数だ。新しい治療方法が見つかったなどという話ならば別だが、今日のテーマはありきたりな物で、聞く価値があるとは思えん」


「え? だったら、どうして満席なんですか?」


「客の半数は、恐らく俺と同じ目的だ。
景仁会病院は2年後、系列の総合病院の新設予定があるらしい。これはまだ未発表だが、関係企業は既に準備に入っている」


「ええと……その関係企業とは、うちの会社もということでしょうか?」


「そうだ。これは大きなビジネスチャンス。
景仁会とはできるだけ、コネクションを作っておきたいから、こうして来ている」


つまり……足りない脳みそで、常務の説明を噛み砕こうと試みた。

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