鬼常務の獲物は私!?



側に行き、地面にお尻をつけると、太郎くんはすぐに私の膝に乗ってきて、尻尾を体に巻きつけ眠ってしまう。

その愛らしい姿に頬を綻ばせ、口からはあくびがひとつ。

いつの間にか隣に立派な木が生えていた。

その幹に頭も体も全てを預け、私は太郎くんと一緒に夢さえない深い眠りの中へと落ちていった……。



「起きろ」と声をかけられ、頬をペチペチと叩かれ、ゆっくりと目を開けた。

あれ……ここは……。

ザワザワした話し声や、大勢の人が移動している気配がする。

ぼんやりとした意識はすぐに集約されて、講演会中に寝てしまったことに気づき、慌て始める。

「ご、ごめんなさい!」と謝り、姿勢を正した後にもうひとつ気づいたことが。

私……常務の肩にもたれて眠っていたみたい。

なんて失礼なことをしてしまったのだろうと焦ったが、常務の顔に不機嫌そうな様子はなく、口角が上がっているところを見ると、むしろ機嫌がいいようにも思える。

神永常務は座席から立ち上がると、「行くぞ、急げ」と、私に手を差し伸べた。

その手に掴まり私も立ち上がったが、急ぐ理由もどこへ行こうとしているのかも、分かっていなかった。

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