鬼常務の獲物は私!?



ホール内の通路には、大勢の人が出口に向けてゾロゾロと歩いている。

私たちもその中に混ざると「ちゃんと付いて来いよ」と、神永常務に言われた。

常務と高山さんは人波を縫うようにしてメインホールのドアから出て行き、ついていける能力のない私は、もうはや置いていかれてしまった。

焦りつつもどうすることもできなくて、人の流れに任せてゆっくりと出口に向かう。

やっとホールから抜け出せて、キョロキョロと辺りを見回した時には、ふたりの姿を完全に見失っていた。


どうしよう……迷子になってしまった……。

不安の中で周囲の動きに合わせて廊下を進み、長い下りのエスカレーターに乗る。

すると、神永常務と高山さんの姿を見つけた。

1階ロビーで、私は知らない男性に声を掛け、名刺交換をしている。

社内では眉間にシワを寄せていることの多い神永常務も、今は営業スマイルを浮かべ、爽やか好青年に見えなくもなかった。


エスカレーターでゆっくりと下りながら、先ほど『行くぞ、急げ』と言われた理由をやっと理解していた。

そういえば常務室で高山さんに、今日の仕事は講演会後のロビー活動だと、言われた気もする。

どうやら、講演会に来ていた景仁会病院関係者を捕まえて、アプローチするのが今日のメインの仕事みたい。


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