鬼常務の獲物は私!?



よく見ると常務と高山さんだけではなく、あちこちで名刺交換や立ち話をしている人々の姿が。

挨拶待ちの列ができているところもある。

新病院設立に関してはきっと、私たち医療機器販売会社だけではなく、建築や電気設備、家具やリネン、厨房機器など、様々な業種のビジネスチャンスでもある。

色んな業種の人たちが広いロビーで営業合戦を繰り広げ、その中にはもちろん、うちのライバル会社も多数いることだろう。

ビジネスの戦場が初体験の私にとっては、溜息しか出てこない。

すごいなと、ただただ感心するばかりだった。


エスカレーターを下りきり、さてどうしようかと考える。

神永常務に近づいて行くべきか、それとも邪魔にならない場所で待機しているべきか……。

迷いながら広いロビーの壁際をうろついていると、トイレに続く細い通路の曲がり角で、奥から出てきた人とぶつかってしまった。

どんとぶつかったその人は、70代半ばに見える恰幅のよい男性で、白髪の太い眉が印象的なお年寄り。

体格差で私が飛ばされ、硬い床に尻もちをついたのだけれど、こんな場合も大抵、私の不注意が原因だと決まっている。

慌てて立ち上がり「申し訳ありません!」と、深々と頭を下げた。

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