鬼常務の獲物は私!?
「いやいや、こちらこそ申し訳ない。
お嬢さん、お怪我はないかな?」
ご老人は紳士的に心配してくれて、私が落としたコートとショルダーバックまで拾ってくれた。
不注意を怒られなかったことにホッとしてから「大丈夫です」と笑顔を向ける。
「のろまなので、転ぶことに慣れているんです。多分私のお尻は、他の人より丈夫になっていると思います」
自分がいかに鈍臭いかの説明は、余計だったかもしれない。
言ってしまってからそれに気付き、恥ずかしくなって顔を赤らめると、ワハハと大きな声で笑われてしまった。
「これは面白くて可愛らしいお嬢さんだ」
ご老人がそんな褒め方をしてくれた時、バタバタと走る革靴の音が聞こえて、私の横に神永常務が駆けつけた。
「景仁会病院の生田目(ナマタメ)理事長先生! もしやうちの社員が、なにか失礼をしでかしたのでしょうか⁉︎」
「おや、君は?」
「し、失礼しました。私は株式会社神永メディカルの……」
名刺を差し出して丁寧な挨拶と自己紹介をしつつ、こめかみから冷や汗を流している神永常務。
その横顔を見上げて、私はポカンとしていた。