鬼常務の獲物は私!?
随分と慌てている様子だけれど、このご老人は……あれ、常務はなんと呼び掛けていたっけ?
ほんの少し前の記憶を手繰り寄せ、頭の中で常務の言葉を再生してみる。
『景仁会病院の生田目理事長先生……』
え……このご老人が、常務の狙っている病院の理事長なの……⁉︎
驚いた後には焦りが込み上げ、「ぶつかって、大変申し訳ありませんでした!」と、再度頭を下げた。
「そんなに謝らんでもいい。転んでしまったのはお嬢さんの方じゃないか」
「は、はい……」
「そうか、愉快なお嬢さんは神永メディカルの社員なのか。せっかくだから、お嬢さんの名刺もいただいていいかな?」
「は、はい!」
名刺入れは常務室で高山さんに渡された。
それを出そうとしたのだが、どこにしまったか忘れて、アタフタしてしまう。
ショルダーバックかと思って中を覗くが、私のスマホと、私の物ではないティッシュとハンカチが入っているだけ。
それならコートのポケットかと思い、コートを広げてバサバサさせていたら、「ここに入っているだろ」と常務に言われ、着ているスーツのポケットを叩かれた。