鬼常務の獲物は私!?
鈍臭い私は昔から、焦りが加速すると失態に失態を重ねてしまう。
ポケットから急いで取り出した名刺入れは、勢い余って手から飛び出し、神永常務の顔面に直撃。
その後、床に落ちて、20枚ほど入っている名刺の全てが散らばってしまった。
ど、どうしよう……。
そろそろと常務の顔を見上げると、こめかみがピクピクして、かなりお怒りのご様子。
これは後で殺されてしまうかもしれないと、身の危険を感じて青ざめていたら、さっきよりも大きな笑い声が目の前で響き、理事長先生がお腹を抱えて笑っていた。
「これは、愉快、愉快。神永メディカルは随分と楽しい会社のようだな」
「私の部下の重ね重ねのご無礼、大変申し訳ございません」
「いやいや、せっかく楽しい気分なのだから謝らんでくれ。
君たちは今日、ビジネスに来たのだろう?よかろう。今度ゆっくり話し合おうじゃないか」
ワハハと大声で笑う理事長先生と、凹んでいいのか、喜んでいいのか分からず、突っ立っているだけの私。
神永常務は驚きの表情を浮かべていたが、すぐさま深々と頭を下げ、「感謝いたします」とお礼の言葉を述べていた。