鬼常務の獲物は私!?
一件落着と言っていいのか分からないが、無事にビジネスチャンスを手に入れることができ、常務の顔からも怒りが消えた。
散らばった名刺を拾って一枚を理事長先生に差し上げ、お返しの名刺もいただき、それから少し世間話をする。
話の途中で理事長先生は私たちの後ろに視線を向けて、「おーい」と誰かを呼び寄せていた。
振り向くと、恰幅のよい……というより、太った40代くらいの男性がこっちに近づいてくるのが見える。
身長は180センチを少し超えたところか。
神永常務と大体同じくらいだが、横幅が大人ふたり半ほどもあるので、常務よりも大きく感じた。
眼鏡が小さく見えるのは、顔も大きいせいなのかもしれない。
スーツのボタンが弾け飛びそうで、つい心配の目を向けてしまう。
その人は私たちに軽く会釈した後に、理事長先生の隣に並んだ。
「紹介しよう。息子の生田目育夫だ。
うちの病院で事務長をしている」
その紹介で、神永常務の目がキラリと輝いた。
すかさず名刺を取り出し、ビジネススマイルを浮かべてご挨拶。
「お目にかかれて光栄です。
私は株式会社神永メディカルの……」
その間私は、理事長先生の息子さんを見ながら考えていた。
事務長ということは、医師ではないのだろう。
理事長先生は医師だ。さっきいただいた名刺に、医師の肩書きも書かれてあったから間違いない。
医師の息子は医師になり、親の病院の跡を継ぐものだと思っていた私には、息子さんが事務長をしていることが不思議に思えた。