鬼常務の獲物は私!?



どうしてだろうと考えて、ハッと気づく。

この人、医師になれなかったんだ……。

飛び抜けて優秀な頭脳を持っていないと、大学の医学部受験には合格できないし、その後には国家試験の関門も控えている。

親が医師だからといって、息子が必ずしも同じ道に進めるわけじゃない。

そっか……この人は、医師になれなかった落ちこぼれなんだ……。

落ちこぼれという点が私と一緒で、妙に親近感を覚えてしまった。

マヌケなのは私だけじゃないのだと、勇気付けられた気もする。

それで、つい口もとを綻ばせ、親しげな視線で見つめてしまったら、事務長さんと目がバッチリ合ってしまった。

すると、眼鏡の奥の小さな瞳が見開かれる。

驚いているようにも取れる顔をして、なぜか瞬きもせずにジッと私を見つめてくる。

さっきよりも耳が赤く見えるのは、気のせいか……。

それまでは神永常務の挨拶に対し普通に返事をしていた事務長さんだが、急に黙ってしまったことに戸惑っていた。

私の顔を凝視している理由も分からず、困ってしまう。


もしかして……私の顔になにか付いているのだろうか?

まさか、お昼のお弁当の卵焼きに混ぜた白ゴマが、歯に挟まっているとか?

いや、煮物のひじきかも。それとも、ご飯にかけたフリカケか……。

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