鬼常務の獲物は私!?



急な呼び出しで、歯磨きしている暇がなかったのは仕方ないとして、せめて口もとの鏡チェックくらいしておけばよかったと後悔していた。

そんな私に神永常務は、ビジネススマイルを浮かべたまま言った。


「福原、今すぐ高山を捜して、これを渡してもらいたい。急ぎなのを忘れていた。すまないな」


渡されたのは手提げ鞄から取り出したA3サイズの白い封筒で、うちの社名と住所が印刷されているものだった。

「分かりました」と受け取り、理事長先生と事務長さんに一礼する。


「私はこれで失礼させていただきます」

「ああ。愉快なお嬢さん、またいつかお会いしましょう」

「はい、ありがとうございます!」


理事長先生は笑顔で言葉をかけてくれたが、事務長さんはなにも言ってくれず、固まってしまったかのように私を見つめたままだった。

やっぱり、歯に海苔でも付いているんだと恥ずかしくなり、慌てて背を向ける。

すると後ろで「あの……」と、事務長さんの声が聞こえた気がした。

それはとても小さな声で、気のせいかもと思いつつ一応振り返ろうとしたら、「福原、早く行け」と、常務に言われてしまった。


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