鬼常務の獲物は私!?
手すりの外側には事故防止用のアクリル板が、乗り口付近にのみ設置されている。
しかし、エスカレーターの側面の下部には幅25センチほどの足場のような出っ張りが上まで続いており、アクリル板との間に隙間があった。
私なら入らないであろうその隙間に、小さな男の子は体を横にして入り込む。
そして……外側から両手で手すりに掴まると、上へと上って行ってしまった。
エスカレーターの手すりで遊んでいる内に、ぶら下がるように上ってしまい、高い位置から落下するという事故の話を、以前どこかで聞いた覚えがあった。
それを予感して頭の中に恐怖がよぎり、私は慌てて走り出す。
座っていたベンチから男の子までの距離は、7〜8メートルといったところ。
「危ないよ!」と大声で呼びかけ走り出した3歩目で……私は前のめりに体勢を崩して、顔から床にスライディングしてしまった。
顎を床に打ち付けながら、「助けて!」と叫ぶ男の子の声を耳にした。
見上げると、エレベーターの側面で、手すりに両手でぶら下がり、足をバタつかせている男の子の姿が。
エスカレーターは3階までの吹き抜けの上まで一直線に続いていて、その子はもう、2階辺りまで運ばれてしまっていた。