鬼常務の獲物は私!?
「起きれるか?」と聞かれて、やっと身を起こして床に座った。
「また怪我しやがって……」そう言われて、顎を床にぶつけたことを思い出す。
指先で自分の顎に触れてみると、ほんの少しだけ血が付いた。
男の子も神永常務も無傷なのに、直接的にはなにもしていない私が怪我をするなんて、かなりおかしな話だ。
恥ずかしさにエヘヘと笑ってごまかそうとしたが、その笑いはすぐに驚きに取って代わられた。
常務の人差し指と中指が私の顎下にかかり、顔をやや上に向けられてしまう。
綺麗な顔がゆっくり近づいてきて、赤い舌先が顎の傷をペロリと舐めた。
「キスしたいところだが、人目があるからやめておく」
そう言った常務はスーツのポケットから絆創膏を取り出し、包装を破って傷にペタリと貼ってくれた。
目をまん丸にして固まる私に向け、常務は「そんなに驚くほどのことじゃないだろ」と、軽く言ってくれる。
「俺が絆創膏を持ち歩いていたら、そんなにおかしいか?」
「え……?」
「これは高山に持たされたんだ。日菜子を連れて歩くなら、持っていた方がいいと言われてな。早速、役立ったが……」
驚いて固まってしまった理由は、それじゃないんですけど……。