鬼常務の獲物は私!?
「高山を困らせてやろう。日菜子、スマホの電源を落としておけよ。
あいつ、焦って探すんだろうな……」
いたずらっ子のような顔で笑う神永常務は楽しそうで、私も釣られて楽しい気分になってきた。
言われた通りスマホの電源を落とし、常務がコートを羽織ったのを見て、私もコートに袖を通した。
「まずは遅い昼食に付き合ってくれ。
今日は忙しくて、まだ食べていないんだ」
急な呼び出しで私もお弁当を3分の1しか食べられなかったので、お腹が空いていた。
「はい、喜んで!」と、その申し出をふたつ返事で了承する。
神永常務の隣でエントランスに向けて歩を進め、「なにが食べたい?」と聞かれたので「ラーメンが食べたいです」と答えた。
「安上がりだな」と笑われてしまったけれど、飲食店の案内板を見ながら食べたいと強く思った気持ちは消すことができず……。
常務の隣を歩きながら、ウキウキしている自分の心にふと気付く。
私、神永常務に慣れてきたのかな……。
それとも、ラーメン効果か……。
少し前まで怯えていたのに、今はもう、恐いと思う気持ちがすっかりどこかへ消えていた。