鬼常務の獲物は私!?
「あ、あの……」
常務がなにを気にしているのか分からず声をかけたら、「なんだ、破れているのか」そんな答えが返ってきた。
片手を伸ばし膝裏に触れて、自分でも確かめてみる。
破れているというか、ストッキングが伝線していた。
膝裏から上に伸びているので、もしかしたらお尻の辺りまで伝線しているかもしれない。
常務は私の足を撫でた時、突然違う感触に変わったから気になったのだろう。
それがただの伝線だったと分かり、『なんだ』と言ったわけだが、私が「今朝、太郎くんに……」そう言いかけたら、急に眉間にシワを寄せた。
言ってしまってから、しまったと慌てる私。
常務の猫嫌いは健在で、太郎くんの名前を出すと不機嫌になる状況は変わらず続いている。
伝線の原因は多分、今朝の歯磨き中に太郎くんが「遊ぼう〜」とお尻の辺りに飛び付いてきたせいだと思うが、それを説明するべきではなかったと後悔する。
すぐに片手で口を押さえて、首を小さく横にふってみたが、もう遅い。
後ろに聞こえてきたのは、「へぇ……これも太郎の仕業か……」と独り言のように呟く、常務の低い声だった。