鬼常務の獲物は私!?
調子づく指先は、伝線部分から外れて内ももへと移動し、さらに上へと上り始めた。
もうダメ……頭が変になっちゃいそう……。
ドキドキしすぎの心臓も苦しくて、このままでは倒れてしまう……。
「お願いです、それ以上はどうか……」
限界間近の私が懇願した時、ドアが3回ノックされる音を聞いた。
チッと舌打ちした常務は私のスカートを直し、素早く立ち上がる。
ソファーから離れ仕事用の机に向かうと、革張りの椅子にドサリと腰を下ろし、不機嫌そうな声で「どうぞ」と答えていた。
「失礼します」
ドアが開いて入ってきたのは高山さん……だけではなく、もうひとりいた。
長い黒髪をひとつに束ね、眼鏡をかけた女性で、年齢は私と同じくらいに見える。
身長は私より5センチほど高そうで、スーツの似合う細身の美人だった。
彼女の視線は私には向けられず、神永常務に真っすぐ向けられていた。
それだけで私は感心してしまう。
最近は慣れてきたけれど、少し前までの私は常務に怯えて、おどおどしていた。真っすぐに視線を合わせるなんて、恐くて無理だった。
彼女の眼鏡は知的な印象を与える。加えて物怖じしないその度胸。
誰かは分からないその女性を見て、この人、仕事ができる……そんなふうに感じていた。