鬼常務の獲物は私!?
まるで恋人みたいなシチュエーションに、どうしていいのか分からなかった。
彼氏いない歴が年齢と同じだという悲しい私には、気の利いた返しなど思いつかず、オロオロするしかできない。
「福原日菜子」
私の名前を呼ぶ彼の声には、初めて聞くような艶が込められていた。
返事もできずに困っていると、ジッと見つめられ、真顔で言われた。
「俺にはお前が必要なのかもしれない」
「え……?」
「俺の女にならないか」
それはつまり、どういう意味だろう……。
鈍臭いこの頭では、理解するまでに数秒かかってしまう。
俺の女という意味は、彼女ということで、彼は交際の申し込みを……え、神永常務が私に告白しているの!?
やっと理解した後は、握られていた手を引っ込め、慌てふためく。
いい女からかけ離れた存在の私は、のろまで鈍くて、小さなミスはしょっちゅうだし、過去に出会った男性たちは私を女性としてではなく、子供かペットのような存在としてかわいがってくれるだけ。
頭をよしよしと撫でられたり、『かわいいから飴あげる』と言われたり。
『付き合っちゃう?』と言われたこともあったけれど、それは冗談に違いないので頷かなかった。
本気で告白してくれる相手がいないことを寂しく思いながら生きてきて、二十七歳になってしまった私に、まさか神永常務が告白するなんて……。
目を泳がせながら、なんと言って断ろうかと考えていた。
生まれて初めての本気の告白は嬉しいけれど、それ以上に困ってしまう。
頭の中に色々な断りの台詞を並べてみたのに、結局口をついて出たのは、一番シンプルな「嫌です」という言葉だった。
途端に、彼の眉間に深いシワが寄る。
明らかに不機嫌そうな声で、「この俺を振る理由は、なんだ」と聞かれてしまった。
神永メディカルの御曹司で、将来の社長の座を約束されているも同然な彼は、玉の輿に憧れる女性から見れば、文句のつけどころがない背景だ。
加えて、整いまくりのハンサムフェイスに、モデル並みのルックスで。
なにもかもパーフェクトに思える男性なのは分かっていても、私にとって決定的にダメな部分があった。
それは……怖いところ。
こうして鋭い視線を向けられると、震えて逃げ出したくなってしまう。