鬼常務の獲物は私!?
ベッドに膝立ちして、拳を握りしめた。
睨みを効かせる常務に負けじと、「私は太郎くんを愛してます!」と力一杯宣言した。
すると、彼が深い溜息をつく。
椅子から立ち上がり、片膝をベッドの縁にかけ、私との距離を縮めてきた。
そして右手は、ゆっくりと私の胸もとに伸びてきて……。
「や、やめてください!」
襲われるかと思い、慌てて両腕で胸を守って身構えたら、「バスローブの襟が緩んでいる。直してやろうとしただけだ」と、淡々と言い返された。
そうだったのか……。
それは失礼な態度を取ってしまったと、すぐに反省し、「勘違いしてすみません」と謝った。
防御の姿勢も解除した次の瞬間……突然肩を掴まれて、ベッドに押し倒されてしまった。
「きゃあ!」と悲鳴を上げたのは、バスローブの合わせ目を開かれてしまったから。
ピンクのブラジャーがあらわになり、慌てて隠そうとしたら、両手首を強く握られてベッドに縫いつけられてしまった。
彼の右膝が私の股に割って入り、鋭い光を放つふたつの瞳が、真上から静かに見下ろしていた。
これ以上ないほどに速く脈打つ鼓動を感じながら、騙されたことにショックを受けていると、常務が低く呟いた。
「素直な女だ。太郎にも、いいように言いくるめられ、騙されてるのだろうな……」
言いくるめられるって……なに?
太郎くんは『ニャーン』としか言わないのに、一体なにを騙すというのだろう……。
襲われている状態で思わずキョトンとしてしまうと、「手荒なことをして悪かった」と謝られ、すぐに退いてくれた。バスローブの襟を急いで引き寄せ、身を起こす。
ベッドから下りた常務は「高山」と大きな声で呼びかけて、ドアが開くと、廊下から第一秘書の高山さんが入ってきた。
その手には、ホテルのロゴマークのついた白い紙袋がひとつ。
私の方に歩み寄り、それをベッドに置いた。
「ホテルの超速クリーニングに出しておいた余興の衣装が、綺麗になって戻ってきました。
着てきたワンピースでも衣装でも、どちらでもお好きな方を着てください」
「それはどうも、ありがとうございます……」
余興の衣装は二度と着ることはないのにと思いつつ、お礼を口にした。
高山さんは知的で事務的な微笑みを浮かべ、説明を続ける。
「福原さんの髪の毛に、料理の汚れがまだついています。シャワーを浴びてから帰った方がいいでしょう。
私と神永常務は、重役との二次会に出席しなければなりませんので、お先に失礼します」
「はい、色々とありがとうございました……」