鬼常務の獲物は私!?
神永常務は仕立てのよさそうなグレーのコートを羽織りながら、私に背を向ける。
高山さんが当然のようにドアを開けて脇に控え、常務は悠然と廊下に向けて歩き出した。
その後ろ姿を黙って見送る私。
部屋から出る一歩手前で、彼は思い直したように足を止めて振り向くと、言葉を残した。
「俺は諦めの悪い男だ。欲しいと思った物は、なにをしてでも手に入れる。覚悟しろ」
ドアがバタンと閉められ、静寂が訪れる。
ひとりになった部屋の中、半開きの口でポカンとしてしまったけれど、すぐに心は慌て始めた。
覚悟しろって……常務はなにをするつもりなのか……。
のんびりと平和な私の日常が、大きく変わりそうな予感がしていた。