鬼常務の獲物は私!?
車内の空気が急に冷たくなった気がした。
常務は睨むような鋭い目つきでジッと私を見据えており、少しだけ恐くなってしまう。
でも、ここで引くわけにはいかない。
私は太郎くんを捨てられないのだから、なんとか常務に太郎くんを認めてもらわないと。
今までの私なら恐いと感じたらすぐに逃げ道を探してしまったが、今は目を逸らさず、真剣に見つめ返した。
沈黙が続き、私の背中には冷や汗が流れている。
探るような鋭い視線で私の目の奥を覗いていた神永常務は、数秒して、眉間にシワを寄せたまま「いいだろう」と低く呟いた。
「ありがとうございます!」
「直接対決か……。できれば自分で決着をつけてほしいところだが、まぁいい。愛は消えても情が移れば、言い出しにくい気持ちも分かる」
「え……?」
「太郎には、女に寄生せず、自分の力で生きてみろと言ってやりたいしな」
直接対決って……まさか……。
嫌な予感に青ざめる。
太郎くんの首根っこを捕まえ、自分の力で生きろと、ポイッと寒空の下に投げ出す常務を想像してしまった。
家猫歴5年の太郎くんは、きっと野良じゃ生きていけない。
大事な太郎くんの身の危険を予感して、会わせようとしたことをもう早、後悔していた。