鬼常務の獲物は私!?



「あ、あの、やっぱりまた今度ということに……」

慌てて言い直そうとしたら、車は急発進してUターン。舌を噛んでしまった。

車はホテルではなく、私のマンションに向きを変え、少々荒い運転で走り出してしまう。

「やっぱり今日はやめましょう」と何度言っても「うるさい、会わせろ」と言うばかりで車を止めてくれない。

そうこうしている内に、あっという間にマンション近くまで来てしまった。


車が止まったのは、マンションから徒歩2分ほどの場所にあるコインパーキング。

強引に車から降ろされ、手首を握られ、私を引っ張るようにして常務はズンズンと歩いて行く。

すぐにマンションが見えてきて、私の中に諦めが広がった。

常務の決意を揺るがすことはできないのだと悟った後は、私も覚悟を決めることにした。

太郎くんの愛らしさで猫嫌いが直るのがベストストーリーだが、そうじゃなく、もし追い出そうとするのなら……私が全力で太郎くんを守らないと。


古くて狭く、オートロックの自動ドアもないエントランスをくぐり、階段を上る。

ここからは私が前を歩いた。

「古い、ボロい、セキュリティーがまるでなってない」と後ろで常務がマンションに文句をつけ、「危険だから早く引っ越せ」と私に言う。

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