鬼常務の獲物は私!?
世の中には犬や猫にオシャレをさせて楽しむ人もいる。
着飾ったよその猫ちゃんの画像を見てしまうと、うちの太郎くんにもオシャレをさせたくなってしまうが、本人が嫌がるのに無理強いはできない。
そんなことを考えながら靴を脱ぎ、廊下に足を踏み出す。
私の後ろでは「裸で首輪って……まさか、監禁願望でもあるのか……」と、よく分からない独り言を呟いている常務がいるが、私の意識は既に太郎くんだけに向けられているので、気に留めなかった。
「太郎くーん、ただいまー」
いつもなら呼び掛けるとすぐに、玄関まで走ってきてくれる。
足音や鍵を開ける音を聞きつけて、玄関前に座って待っていてくれる時もたまにある。
それなのに、今日はどうして出て来てくれないのか……。
熟睡中かもしれないと考えて、5歩分しかない短い廊下を歩き、その先のワンルームの部屋に入ろうとしたら……薄暗い部屋の中に、ふたつの光る目を見つけた。
開けっ放しにしているドアの少し奥で、太郎くんが固まったように動かない。
尻尾の毛が逆立っているので、なにかを警戒中だということが分かる。