鬼常務の獲物は私!?
それを見て、出迎えてくれなかった訳を理解した。
狭い我が家にお客さんが来ることは滅多にない上に、男性は初めてのこと。
太郎くんとしては、「日菜ちゃんが帰ってきた! わーい……ん? なんだこのデカイ生物は⁉︎」という気持ちなのだろう。
「お客さんだよ。大丈夫、怖くないよ」と声をかけて、部屋の電気をつけた。
明るくなると太郎くんはパッと身を翻して、部屋の奥のベッドの下に逃げ込んでしまう。
これは困った。太郎くんの愛らしさで猫嫌いをなんとかしたいと企んでいるのに、怖がって逃げられたら常務にアピールできない。
急いでキッチンの戸棚から猫用オヤツの、カニかま味の焼きササミを出してきて、ベッドの下を覗き込みながらオヤツで誘う。
「おいでー。ほら、オヤツあげるよー」
オヤツは食べたいのか、白黒の手がニュッと伸びてきた。
その手を素早く捕まえて引っ張り出したが、猫キックをくらってしまい、オヤツだけ取られて逃げられてしまった。
今度は猫タワーの上に登ってしまった太郎くんに呼びかける。