鬼常務の獲物は私!?
突然の大声にビクついてしまい、その結果緩んだ手をすり抜け、せっかく捕まえた太郎くんがまた逃げてしまった。
猫タワーのてっぺんに上った太郎くんは、全身の毛を逆立てて、「シャーシャー」と神永常務を威嚇している。
ああ……やっぱり、ダメなのかな……。
普段の太郎くんは天使と言ってもいいほどに愛らしいのに、こんな敵意むき出しの態度じゃ、猫嫌いを直せそうにない。
常務もすごく怒っているし、太郎くんを認めてほしいとは、もう言えない。
ということは、私の恋は実らずに終わってしまうのか……。
床にペッタリとお尻を付け、泣き出しそうな顔で常務を見つめていると、彼の憤怒の表情が急に解けた。
聞こえたのは怒鳴り声ではなく、溜息混じりの「騙された」という独り言で、その後はプッと吹き出して、なぜか肩を揺すって笑い出す。
なにを騙されて、なにがおかしいのかさっぱり分からない私は、キョトンとしてしまう。
するとスーツの両腕が伸びてきて、私の体に回され、正面から強く抱きしめられた。
「あ、あの……」
戸惑う私の額にチュッと口づけ、頰と耳にも口づけた常務は、私を腕に抱いたまま、笑いながら文句を言う。
「太郎が猫だと、なぜ言わないんだ」