鬼常務の獲物は私!?
「俺がどれほど苦しい夜を過ごしたと思っているんだ」
「え?」
「今頃、太郎に抱かれているんじゃないかと、怒りと悔しさで眠れない夜が何度もあったんだぞ」
「そ、そんなこと言われても……」
私だって辛かった。
少しずつ常務に惹かれていく気持ちを押し留めるのが大変で、どうして猫嫌いなのだろうと、溜息をついていたのに。
「猫嫌いではないんですよね?」と、一応確認してみたら、「嫌いじゃない」と言ってもらえた。
「好きでもないが、お前が何匹猫を飼っていようと、別にどうでもいいことだ」
「よかった……」
これで全ての心配も不安も消えて、神永常務とお付き合いを始めることができそう。
常務が腕の力を緩めたので、私もスーツの肩にもたれていた顔を上げ、20センチの距離で見つめ合った。
黒曜石みたいな綺麗な瞳に、私の顔が映り込む。
無言で視線を絡ませていると、自然と磁石で引き合うように顔が近づき、額がコツンとぶつかって同時にクスクスと笑い出した。