鬼常務の獲物は私!?
「だから、お前が笑うなって」
「勘違いさせてすみません。でも、おかしくて……」
「まったく、馬鹿馬鹿しい話だ。
で? まだお前からの返事をもらっていないが」
「あ……そうですね」
くっつけていた額を離し、モゾモゾと姿勢を正す。
床の上に正座して真面目な顔を向けると、常務はニヤリと笑って言った。
「日菜子、俺の女になれ」
「はい、よろしくお願いします!」
随分と遠回りした気もするけれど、終わりよければ全てよし。
勘違いしていたことも、想いを深めるためのスパイスだったと思えば、役に立ったように思える。
私が笑顔でいるからか、猫タワーのてっぺんに避難した太郎くんも、今は威嚇するのをやめて、大人しくこっちを見守ってくれていた。
落ち着いてくれて、よかった……。
今なら「うちの太郎くんは可愛い」と、自信を持って常務に言える。
そういえば、太郎くんにまだ夕食をあげていなかった。急いで用意……あ、でもさっき、猫用オヤツをあげたばかり。
最近少し太り気味で、獣医さんに餌の量に気をつけなさいと注意されてしまったし、今日の夕食はいらないか……。