鬼常務の獲物は私!?
太郎くんを見ている私の視界の端には、唇を尖らせてゆっくりと近づいてくる、常務の綺麗な顔が映っていた。
しかし、気持ちは太郎くんの夕食の心配に向けられていたので、うっかりそれを無視してしまう。
やっぱり夕食を用意しよう。
オヤツだけじゃ夜中にお腹が空いてしまうから可哀想だ。
スックと立ち上がり、ワンルームの端についている小さなキッチンに向かう。
戸棚を開けてドライフードを出し、お皿に入れて「太郎くん、ご飯だよー」と振り返ると、真後ろに眉間にシワを寄せた常務が立っていて、肩をビクつかせてしまった。
「ひゃっ‼︎」
「おい、今のはわざとか?」
「え? な、なにがですか?」
意味が分からず聞き返すと、呆れ顔で深い溜息をつかれてしまった。
なぜか不機嫌そうな常務の様子を気にしつつも、太郎くんが「ニャーン」と足もとにすり寄ってきたので、コソコソと餌の入ったお皿と水入れを床の隅に置く。
「日菜子、そこのすりガラスのドアは、バスルームか?」
「は、はい。そうですが……」
「来い」
「え? あ、あの……」