鬼常務の獲物は私!?
名案を思いついたお陰で、爆発しそうに高鳴る鼓動も、幾らか落ち着いてくれたように感じる。
ずっと着っぱなしだったコートをやっと脱いだ私は、ボタンの取れた制服の上にエプロンを着ると、シャワーの音を聞きながら料理を始めた。
時間がないから、すぐにできるものを……。
冷蔵庫を物色して、狭いキッチンに食材を出していく。
砂出しして冷凍しておいたアサリを鍋に入れ、酒蒸しを作り、薄切りにした大根と豚バラ肉で、醤油味の炒め煮を作った。
レタスとハムとトマトでサラダを作り、菜の花を茹でてからし和えにし、冷凍五目ご飯をレンジでチン。
これだけじゃ満腹にならないかもしれないので、昨日作った残り物の肉じゃがを温め、お弁当用の常備おかずのひじきの煮物も出した。
さらに卵2個分のだし巻き卵焼きを焼く。
四角いフライパンの中でくるくる巻き上げた時、シャワーの音がやんで、浴室のドアがカチャリと開いた。
「いい匂いだな……夕食、作ってくれたのか」
「は、はい。庶民的なものばかりですが、食べて下さい」
決して右横は見ないようにして、焼き上がっただし巻き卵焼きをお皿に乗せる。
包丁を入れると木の年輪のような断面から、だしと醤油の優しい匂いが、湯気と共にふわりと立ち上った。