鬼常務の獲物は私!?
タンスから着替えを出すのも忘れ、ベッドサイドでふたりの様子を眺める。
太郎くんはいつも通りの愛らしい寝姿で、神永常務は……。
寝顔を覗いてみたい衝動に駆られ、ベッドの端に片手をついたとき、「うーん」と唸って、常務が寝返りを打った。
ギクリとして慌ててベッドから手を離したが、目を覚ますことはなく、上を向いてまたスースーと寝息を立て始めた。
起きなくてよかったとホッと胸を撫で下ろす。
それから、初めて見る彼の寝顔に心臓が大きな音を立てた。
寝顔も綺麗……。
いつもは鋭く光っている瞳が閉じているせいか、それとも少し開いた口もとのせいか、綺麗なだけじゃなく、可愛らしくも思えた。
無防備な寝顔に胸の奥がキュンと音を立て、特別なものを見た気がして、得した気分になる。
今日から私たちは恋人になった。「ゆっくりと恋愛を進めていけばいいですよね」と心の中で語りかけ、恋が実った幸せをしみじみと感じていた。
頰を綻ばせながら、しばらく常務の寝顔を堪能し、「寝てくれてよかった……」と呟く。
彼の方へ右手を持ち上げたのは、毛布を直してあげようと思ったから。
寝返りを打った時に胸の真ん中辺りまで毛布が下がってしまい、裸の肩も胸も寒そうだ。
起こさないようにと気を付けて、そっと手を伸ばしたら……常務の目がパッと開いた。
ビクッと肩を揺らして、急いで引っ込めようとした手は、宙で捕らえられる。
心臓が口から飛び出しそうなほどに驚いている私を見て、常務はニヤリと口の端を吊り上げた。
「寝ているわけないだろ」
騙された……。
盛大に驚かされた後は、たちまちパニックに落とされる。
でも、いくら慌てたところでどうにもならず、腕を引っ張られて、彼の上にダイブしてしまった。