鬼常務の獲物は私!?



体に腕が回され、そっと抱きしめられた。

常務の唇が私の涙をすくい、まぶたに口づけ、唇にも優しいキスをくれた。

「初めからやり直させてくれ」と、彼は言う。

初めから……それって、一体どこからだろうと考えてしまう。

夕食を作った後からか、それとも太郎くんが猫だと知って、脱力していたところからか。

まさか、忘年会より前の、営業部で転んだ私に『我が社の汚点だな』と罵った時じゃないよね……?

その疑問をそのまま口に出して聞いてみると、「そんなに前に戻さないでくれ」と苦笑いされてしまった。


「俺の腕の中に、裸のお前を入れたところからだ。初めてだと知っていれば、もっと時間をかけていた。今度は優しく、慎重に……」


その言葉通り、私の肌に触れる指先は、さっきよりもずっと優しい。

くすぐったいと感じるほどにそっと触れて、丁寧に撫で、全身にキスをくれた。

気持ちいい……。さっきみたいな強烈な快感じゃなくて、もっと柔らかくてふわふわした、綿菓子みたいな心地よさ。

そのお陰で痛みの記憶はすぐに、幸福感で上書きされる。

じっくりと丁寧で優しい愛撫は、大切にされているのだという幸せを感じさせてくれて、今度は別の意味で涙がにじんだ。


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