鬼常務の獲物は私!?



そんな高級感漂うマンションの、最上階に住んでいる神永常務には、やっぱりお金持ちの御曹司なのだなと、今さらな感想を抱く。

そして彼女が私なんかで本当にいいのだろうかという戸惑いも、ほんの少しだけ心の中に残っていた……。


エレベーターに乗り込んで、25階へ。

鍵を開けて家に入り、「ただいまー」と声をかけると、リビングから出てきてくれたのは太郎くんだけ。

今日は日曜日だけれど神永常務は仕事で、なんとか病院のなんとか先生と、食事しながら商談だと言って、昼前に出かけて行ったのだ。


前に住んでいたオンボロマンションの、10倍も広い玄関でパンプスを脱いでいると、嬉しそうに近づいてきた太郎くんが、廊下の途中でピタリと歩みを止めた。

あ……匂いで、小雪ちゃんの存在に気づいてしまったか……。

ご対面は慎重に。そう思い、いきなりキャリーバッグからは出さずに、シートだけめくってまずは顔見せ。

網を張った窓のような場所から小雪ちゃんの姿を見せて、太郎くんに優しく話しかけた。


「小雪ちゃんだよ。太郎くんは大きなお兄さんだから優しくしてあげてね。きっと仲良くなれると思うんだ」


ジッと小雪ちゃんを見たまま、固まってしまったかのように動かない太郎くん。

キャリーバッグを覗くと、小雪ちゃんも固まっている。

うーん……相性は悪くないと思うのだけれど、どうなんだろう……。

お互いに様子を伺っているという感じで、威嚇したり嫌がってはいないようだから、取り敢えずは第一段階クリアと言ってもいい気がした。


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