鬼常務の獲物は私!?
それから1時間後、カレイがふっくらと煮上がり、炒め物の香ばしい匂いが広がっていた。
帰宅予定の18時半ぴったりに夕食を作り終えて、お皿に盛り付け、ダイニングテーブルに並べる。
すぐに食べられる状態にしてエプロンを外そうとしていたら、ダイニングテーブルの上で私のスマホが鳴った。
それは神永常務からのメールで、【悪い、30分遅れる。先に食べてろ】との連絡だった。
たった30分の遅れでも、連絡を入れてくれる優しさに、心がじんわりと温められる。
【急がなくてもいいですよ。夕食は一緒に食べたいから待っています】と返信し、スマホを置いた。
パンケーキを食べたのが14時過ぎなので、そんなにお腹も空いていないし、なにより、一緒に食べた方がずっと美味しく感じるだろうから……。
あと30分。早く会いたいと思う恋心と、小雪ちゃんの心配の、ふたつの気持ちを胸にエプロンを外そうと両手を後ろに回したら……ガタンとなにかが倒れる音が、廊下の奥から聞こえた。
驚いて振り返る。
小雪ちゃんになにかあったのかと慌ててリビングのドアの方に向かったら、太郎くんに追われた小雪ちゃんが逃げ込んでくるところだった。
「太郎くん! 追いかけちゃダメだよ!」
そう言いながら、こっちに走ってくる小雪ちゃんを抱き留めようとしたのだが……私の両足の間を潜って後ろに逃げて行ってしまうから、鈍臭い私は触れることもできずに、そのままゴロンと一回転。
さらには、でんぐり返しを決め損ねて、床に仰向けに寝そべってしまった。