鬼常務の獲物は私!?



あ……常務が帰ってきた。

バスルームの時計は18時50分を指していて、まだあと10分余裕があると思っていたから、慌ててしまった。

緩んだ私の手から床に下りた小雪ちゃんは、体のあちこちを舐めて、毛づくろい。

下着姿の私は急いで体についた水滴を拭き、脱いだ服を着ようとしたのだけれど……バタンと玄関ドアの閉まる音がして、「日菜子、どこだ?」と呼びかける常務の声を聞いてしまった。

「ここです」とつい返事をしてしまい、ますます慌てる。

小雪ちゃんをいきなり見せるのは、ちょっとマズイ。まずは言葉で説明してからの方が、スムーズにお許しをいただけそうな気がするから。

それならば、小雪ちゃんには取り敢えずバスルームにいてもらって、私が今すぐ廊下に出ていかないと。


「風呂か? 開けるぞ?」と、廊下に常務の声がした。

同居を始めた日に、玄関以外の鍵を閉めるのは禁止だと命じられている。

加えて彼は、私が入浴中でも躊躇わずにバスルームに入ってくる人なので、「ちょっと待って下さい」という言葉に意味はないと学んでいた。

服を着ている暇はない。

急いで下着の上にエプロンだけを着て廊下に出ると、扉を背にして素早く閉めた。


「お、お帰りなさい……」


小雪ちゃんを見られていないよね……?

ぎこちなく微笑む私の前には、いつも通りスーツをカッコよく着こなす神永常務が立っている。

彼は私の頭からつま先までに視線を一往復させて、なぜか喜んだ。


「へぇ、今日は変わった趣向のお出迎えだな。
裸エプロンか……かなり好きだ」


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