鬼常務の獲物は私!?



ごめんなさいと謝って逃げるのは簡単だけれど、それはできない。

小雪ちゃんをうちの子にすると一度決めたのだから、私はそれを貫き通す。

勇気を奮い起こし、精一杯の強気な視線を常務に向けて、小雪ちゃんのことを説明した。


「1歳の色白の可愛い女の子なんです。今日初めて会ったんですけど、すぐに懐いてくれました。いつもは臆病なのに珍しいとも言われて……」


「1歳って……ちょっと待て!」


「いいえ、待ちません。出会ったことは運命です。私が面倒をみると決めたんです。どうしてもダメだというのなら、もとのオンボロマンションに引っ越します」


なぜか常務は目を見開いて、私を見ていた。

「1歳の女の子」と、私が言った言葉を繰り返して、「まさか、幼女誘拐じゃないよな……」と、おかしな独り言まで呟いている。


「あの、私の話を真面目に聞いていますか……?
太郎くんとの相性も悪くないようだし、このままうちの子にしちゃいたいんですけど……」


なぜか焦ったような顔をしていた神永常務だけれど、太郎くんの名前を出した途端に表情の厳しさを解いて、大きな溜息を吐き出した。

私の顔横に突き立てていた腕も外し、その手でネクタイを緩め、呆れた視線を向けてくる。


「なんだ、また猫の話か」

「あ、はい。もちろんです」

「お前の話し方には天然の悪意を感じるな……」


天然の悪意って、なんだろう……。

意味が分からずキョトンとする私の頭に、大きな手が乗る。

優しく二度叩かれて、それからやっと常務の顔に笑みが戻った。


「まぁ、いい。
猫ならあと2〜3匹、飼ってもいいぞ」

「わっ! ありがとうございます‼︎」

「いつ連れてくるんだ?」

「あ、もう連れてきちゃいました」

「……」


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