鬼常務の獲物は私!?
そんな彼女が今年の初めに私を占った結果、こう言った。
『今年は恋愛運が急上昇する年。運命の相手と激しい恋をすると出た』
このとき私は喜んだ。
人生初めての彼氏ができるのではないかと期待した。
しかし十二月半ばを過ぎたのに、一向に運命の相手は現れず、彼氏いない歴をまた一年更新しそうなだけ。
「星乃ちゃんの占いはよく当たると評判だし、私もそう思ってるよ。でも、ときには違う結果になる場合もあるよね」
占いの力を自負している彼女を傷つけたくないので、『外れちゃったね』と、やんわり言ったつもりだった。
でも星乃ちゃんは負けを認めず、自信たっぷりな顔も崩れない。
「私の占いは外れない。今年はまだ終わってないのだよ。日菜には必ず彼氏ができる」
制服のポケットから、キラリと輝くなにかを取り出す星乃ちゃん。
それは、彼女愛用の水晶玉。
直径四センチほどの小さなもので、手の平に乗せ、その上に私の手を強制的に被せると、ブツブツと何語か分からない呪文を唱え始めた。
「ノウマクサラマンダ……アブラカタブラ、エロイムエッサイム……キェェェッ‼」
「あ、あの、もうちょっと声は小さめに……」
営業部の他の社員たちが、チラチラとこっちを見ていた。
それを気にする私の注意は、彼女の耳に届いていない。
ミステリアスな雰囲気のある瞳をカッと見開くと、重々しい口調で水晶玉のお告げを与えてくれた。
「見えた……。ファーストコンタクトは今日。
彼が接触してきて、日菜の心が大きく波打つのが見える。
その波が引かぬ内にセカンドコンタクト、いや、セカンドインパクトがあるでしょう」
運命の相手との接触が、今日って……。
腕時計を見ると、時刻は十七時。
あと三十分したら終業時刻で、残業や飲み会の予定もない今日は、真っすぐ帰るだけなのに……。
星乃ちゃんはきっと、年初めの占い結果をなんとか実現させたいのだと思う。
でも、ごめんね、こんな私でごめんね。
今日中に運命の相手と出会うなんて絶対に無理だから。
謝罪は心の中に留めておいた。会話が堂々巡りになりそうなので。
先輩社員に頼まれていた資料は集め終わって既に手の中にあり、それを見せながら後ずさると、この場を逃げ出そうとした。
「これ、届けてくるから、またね」
「待ちなさい、話は終わってない」