鬼常務の獲物は私!?



用があるから電話してきたはずなのに、まるで私が通話に出たことに困っているような話し方をする。

「どうしたんですか?」と心配したら、ゴニョゴニョと隣で誰かと会話しているような声がして、それから溜息の後に本間さんが言った。


「実はね、太郎の母猫が今、飼い主さんとうちの店に来ているんだ。明日遠くに引っ越すそうで、母猫を太郎に会わせてやりたいな〜なんて、思ったり、思わなかったり……」


太郎くんのお母さんが⁉︎
その言葉に私のテンションは急上昇した。

かつて写真でのみ母猫の姿を見せてもらったが、全身グレーの毛色の若くて可愛いメス猫だった。

太郎くんを産んだのはたしか2歳の時で、今は7歳の熟女になっているはず。

猫だから一度別れるとお互いに親子であることを認識するのは難しいかもしれないが、母猫の飼い主さんの気持ちはよく分かる。

人間の勝手な思い込みだと言われても、遠くに引っ越す前に子供に会わせてやりたいと、私も同じことを考えてしまいそうだから。

太郎くんが母猫と再会するシーンを頭に描いて、ドキドキワクワク胸が高鳴った。

耳元では「でも急には無理だよね〜来れないよね〜」と、なぜか来てほしくないような言い方にも取れる本間さんの声が聞こえているけれど、全力で「行きます!」と答えた。


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