鬼常務の獲物は私!?
今から帰って、太郎くんを連れて子猫日和に行くと……。
「1時間くらい掛かっちゃいますが、太郎くんのお母さんに会いたいので待っていて下さい。なるべく急いで行きますので!」
通話を繋げたまま、早足で駅に向けて歩き出す。
「あ、どうしよう……えーと、やっぱり……」と、困ったような本間さんの声がしていたが、「あっ!」と驚く声の後に「お待ちしています」と言われて通話が切れてしまった。
あれ……最後の声だけ、本間さんと違うような……。
本間さんよりも低くて油っこいその声は、どこかで聞いたような覚えがある。
スマホをポケットにしまい、駅までの道を急ぎながら考えていたが、誰の声なのか思い出せなかった。
お店にいるということは、アルバイトで雇った人だろうか。それとも、母猫の飼い主さんかもしれない。
どちらにしても多分私の知らない人で、声に聞き覚えがあるのは気のせいか、他人の空似。よくあることだ。
そんなことより急がなくてはと、歩くことに全神経を集中させる。
いつもは他の通行人に邪魔そうに抜かされてしまうのろまな私だが、今だけは心も足取りも軽く、スタスタと駅の階段を下りていった。