鬼常務の獲物は私!?
子猫日和の店の前に着いたのは、それから50分後のことだった。
キャリーバッグの中の太郎くんを覗いてみると、警戒中というより、怖がっているように見える。
完全家猫の太郎くんを外に連れ出すのは、病院での予防接種や定期検診のときくらい。
多分、行き先を病院だと勘違いしていて、それで怯えているのだと思った。
バッグ越しに太郎くんに顔を近づけ、声をかける。
「大丈夫だよ。今日は痛いことされないから。
あのね、太郎くんのお母さんにこれから会うんだよ。覚えているかな……」
恐らく、期待する感動のご対面とはならないのは分かっている。
喧嘩になる可能性も十分にあるけれど、鼻先をチョンとくっつけてご挨拶……なんて姿を見たいという希望も捨てられない。
ドキドキしながら猫カフェのドアに手をかけて、思い直して一度離した。
その前に、彰さんにメールを入れておかないと。
今は18時半。いつも21時くらいに帰る彰さんよりは、私の方が早く帰宅しているとは思うけれど、たまに19時台に帰る時もあるので、心配しないようにメールを……。
『太郎くんのお母さんにご対面してきます』と送信してスマホをしまい、今度こそ店のドアを開けて中に足を踏み入れた。