鬼常務の獲物は私!?
人の気配にホッとする。
なんだ、奥で仕事をしていたのかと近寄り「本間さん」ともう一度呼び掛けると、引戸がガラリと開けられた。
しかし、中からのっそり現れたのは本間さんではなく、生田目事務長で……。
目を見開いて驚いた後には、騙されたと気づき、危険を感じて体が震えた。
逃げなくては……そう思い、一歩足を後ろに引いたら太い腕が伸びてきて、左手首を捕まえられてしまった。
「ど、どうして……」
震える声で問いかけると、事務長が薄ら笑う。
「こうでもしないと、日菜子さんに会えないからね」
来たことを後悔しながら、前に料亭のトイレ前で、ここの店長は事務長の友人だと教えられたことを、やっと思い出していた。
そうだった……。本間さんはいい人だけれど、事務長と繋がりのある人なら、今は安易に近づくべきではなかったのだ。
でも、本当に友人なのかは怪しい。
電話での本間さんは、様子がおかしかった。
まるで来ない方がいいと言いたげな受け答えをしていたし、本来営業中であるはずなのにcloseの札が掛かっているのも変。
もしかして友人だというのは嘘で、本間さんは事務長に脅されているのだろうか?
例えば恐い人を寄越して、ここを買収するからと言われたとか、隣に大型の猫カフェを作って経営破綻させてやると言われたとか……。
証拠もなしに疑うのは失礼だとわかっているが、卑怯な手で私を手に入れようとしていた事務長のことだから、本間さんも脅された可能性は十分に考えられる。
家族やお店の猫たちを守るために、本間さんは嫌々従うしかなかったのかも……。
今思えば、電話でやんわりと危険を知らせてくれていたのに、気づかずにノコノコやってきた私は、なんて馬鹿なのだろう……。