鬼常務の獲物は私!?
まだショックの中にいると思い込んでいたので、つい油断していた。
身の危険を再び感じると同時に肩を掴まれて、悲鳴を上げてしまう。
スマホからは私の名を呼ぶ彰さんの大声が聞こえていたが、取り上げられて通話を切られ、壁に向けて投げつけられてしまった。
さらにはショルダーバッグと、太郎くんの入ったキャリーバッグまで力ずくで奪われて、それらは店の奥へポーンと放り投げられてしまう。
「太郎くんっ‼︎」
床に転がるバッグの中で「ギニャッ」と痛そうな鳴き声がして、私は慌てた。
急いで駆け寄ろうとしたのだが、太い腕が体に回され、肩に担がれるように持ち上げられてしまう。
「やめて下さい!」と叫び、必死に暴れる私。
すると狙ったわけではないのに、パンプスの爪先が事務長の股間にクリーンヒット。
「うぐっ」と低く呻いて、よろける彼の腕からなんとか脱出することができ、店の奥へと投げられた太郎くんのもとに急いで駆け寄った。
キャリーバッグだけを両腕に抱えて、逃げ道を探す。
今すぐにお店の玄関から外に飛び出したいところだが、それには痛そうにうずくまる事務長の横を通る必要があり、躊躇してしまう。
思い切って突破してみようか……でも、捕まえられる可能性もあるし……。
そんなふうに迷っている内に、幾らか回復した事務長が、股間を押さえてゆらりと立ち上がってしまった。
「女のくせに……僕にこんな……許せない……」