鬼常務の獲物は私!?
怒りに震えるその顔からは、私に対する好意など微塵も感じられず、壊してやりたいという恐ろしい感情だけが伝わってくる。
捕まったらなにをされるか分からないから、横を突破して外に逃げるのは無理みたい。じゃあ、どうすれば……。
ゆっくりとこちらに歩み寄る事務長と、キャリーバッグを抱いて後ずさる私。
前を警戒しつつ視線を巡らせて、必死に逃げ場を探していた。
その時目に留まったのは、あかりの漏れるドア。
そこは最初に事務長が隠れていた店の奥の小部屋で、深く考えずに急いでそこに逃げ込んだ。
中に入り引戸を閉める。鍵がついていないので、側にあった柱状の猫の爪研ぎを倒し、突っ張り棒にした。
「そんな所に隠れてどうしようというのかな」
嘲笑うような事務長の声が、数メートルの距離を置いた位置から聞こえるが、取り敢えずの安全を確保できて、強い緊張からは解き放たれた。
真っ先にしたことは、キャリーバッグから太郎くんを出して体のあちこちを調べることで、床に投げられて心配したけれど、どうやら怪我はないみたい。
それを確認してよかったとホッと息を吐き出し、太郎くんを抱きしめた。
すると近づく足音が引戸の前で止まり、ガタガタとドアが揺らされた。
「日菜子さん、ここを開けなさい。
窓のない場所に逃げても外へ出られないよ。観念して出ておいで。その体の隅々まで可愛がってあげるから」