鬼常務の獲物は私!?
ええと、5階に上がって、右に歩けば分かると言っていたよね……。
さっき理香ちゃんに教えてもらった言葉の通り、右側へと歩いて行く。
この階の廊下は他の階と違い、カーペット敷きでホテルの廊下みたい。
話し声は全く聞こえず、シーンと静まり返っているのも違う点。
神永常務の部屋を探して廊下を奥へと進む。
会議室があり、応接室がある。その隣には今は空白のポジションの、副社長室のドアがあって……突き当たりの社長室前に着いてしまった。
あれ? 神永常務の部屋がない。
見逃したのかと思い、慌てて確認しながら引き返したが、見つからないまま階段前に戻ってきてしまった。
なぜ?どうして?
常務室はどこへ消えちゃったの?
オロオロしながら廊下を行ったり来たりしていたら、会議室前で後ろから声をかけられた。
「お前は廊下で、なにをバタバタしているんだ」
振り返ると、高山さんを従えた神永常務が大きな歩幅で歩み寄り、私の前で足を止めた。
ハンサムな顔の眉間には微かにシワが寄って、不機嫌なのが見て取れた。
「遅い。5分も待たせるな。
俺が今すぐ来いと言ったら、1分以内に駆けつけろ」
その言葉に頷かず、私は素直な疑問をぶつけてしまった。
「あの、常務室って、お引越しされたんですか?」
「は?」
神永常務の眉間に、さっきより深いシワが寄る。
「引越しって、なんだよ。
俺の部屋は数年前から変わらずあそこだ」