鬼常務の獲物は私!?



電気がつけられ明るくなった店内に、テーブルや椅子が倒れて転がっている。

猫タワーは半分に折れて、猫トンネルはペシャンコ。猫用おもちゃや猫の写真集やぬいぐるみなどの商品が散乱し、営業できないくらいに滅茶苦茶な有様だ。

そんな店の中央で、ハンモックに足を絡ませた事務長が、大の字で伸びていた。

腕力でやっつけてしまったのか……。

口をあんぐりと開けている私のもとに、彰さんが駆け寄ってきた。


「日菜子、大丈夫か? 怪我はないか?」

「は、はい、私はなんともないのですが……事務長さんは……」


思わず心配してしまった理由は、その顔。
肉付きのよい顔が殴られたせいでさらに腫れ上がり、眼鏡はレンズが割れているし、鼻血と口の端からも出血が……。

これはちょっとやりすぎではないかと、冷汗が流れてしまう。

ピクリとも動かない事務長の姿に「生きてますよね……?」と恐る恐る聞いてみた。

「気を失っているだけですよ」と答えてくれたのは高山さんで、店の奥のキッチンからコップを持ってくると、事務長の顔に水を浴びせた。

ゲホゲホとむせ返ってから、悲鳴を上げて飛び起きた事務長を見て、ホッとする。

よかった……顔面は人相が変わるほどに殴られているけれど、起き上がったところを見ると、骨折はしていないみたい。

意識を取り戻した彼は、真横で事務的な笑みを浮かべる高山さんを見て「ひいっ!」と声を上げ、飛び退くように店の壁際に寄り、防御の姿勢を取っていた。


< 344 / 372 >

この作品をシェア

pagetop