鬼常務の獲物は私!?
「生田目事務長、手荒なことを致しましたことを、神永常務に代わってお詫び申し上げます」
全く申し訳なさそうな顔ではないが、高山さんが頭を下げていた。
私の肩を抱く彰さんは、フンと鼻を鳴らして高山さんに言う。
「謝る必要はない。俺の日菜子を拉致しておいてこの程度の怪我で済んだんだ。むしろ感謝しろと言いたいくらいだ」
拉致……ではなく、騙されて呼び出され、脅されて逃げ出せない状況に追い込まれただけで……。
それも結構酷いことではあるが、怪我の程度を見ると、事務長の方が被害者に見えてしまう。
マズイのではないかと、心に不安が湧き上がる。
もし事務長が被害を届け出れば、警察沙汰になってしまいそう……。
「彰さん……」
眉をハの字に傾けて不安げに見つめると、「怖かったよな。もう大丈夫だから安心しろ」と的外れな言葉を掛けられてしまう。
そうじゃなくて、彰さんが逮捕されたらどうしようと不安なのに……。
どうやら私が危惧したことは、事務長の考えの中にあるみたい。
睨みをきかせる彰さんと、事務スマイルの高山さんに怯えつつ、事務長は壁際で叫ぶように言った。
「こ、こんなことが許されると思っているのか! つ、つ、通報してやる!」
「あ"? 人の女をさらっておいて何言ってやがる。お前が困るだけだから大事にするのはやめておけ」
「ぼ、僕に非はない! ここに来たのは彼女の意思だ。困るのは暴力に出たそっちだろ!」