鬼常務の獲物は私!?
音声だけでも状況はしっかり伝わりそうで、これなら十分に犯罪の証拠となりそうだった。
しかし、よかったとホッとするのは、まだ早いみたい。
ツカツカと奥からこっちへ歩み寄る彰さんに視線を向けて、ギョッとした。
鬼の形相とは、こういう顔のことを言うのか……今の音声を聞いてしまったせいで、彰さんの怒りがまた爆発しそうになっていた。
私と高山さんの前を素通りした彼は、壁際で震える事務長の前に立ち、胸倉を掴みあげる。
右拳は宙に振り上げられ、事務長の悲鳴が響き、私は慌てて駆け寄って彰さんの背中にしがみついた。
「ダメです! これ以上殴ったら死んじゃいます! 高山さんも早く止めて下さい!」
必死に止める私の背後で再生中の音声が止まり、高山さんの声がする。
「神永常務、福原さんが泣きそうになっていますよ。彼女の前での暴力は止めた方がいいと思います」
さすが長年、第一秘書を務めている高山さんだ。
その言葉は効果てきめんで、彰さんは振り上げた拳を下ろし、チッと舌打ちしただけで殴るのをやめてくれた。
胸倉も離されて、事務長はヘナヘナと崩れ落ちるように座り込む。
かなりのダメージを与えられたようだが、それでもまだブツブツと、強気な言葉を繰り返していた。
「こんなに殴られたんだから、被害者は僕だろ。う、う、訴えてやる……」
「それは賢い判断ではありませんね」
そう言ったのはもちろん高山さんで、事務長が訴えるなら、こちらも監禁と暴行の被害届けを提出すると通告した。
それだけではなく、理事長先生のことも……。