鬼常務の獲物は私!?
すると後ろに、本間さんに話しかける彰さんの声がした。
「この度はご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございません。私は株式会社神永メディカルの……」
片付けつつチラリと後ろを振り向くと、仕事中のように名刺を渡して挨拶していた。
「へぇ、常務さんですか。日菜ちゃんは、すごい人と付き合っているな〜〜」
「店舗の修理や破損した物品の購入、営業停止中の売上損失等、全て弁償させていただきますので、こちらの連絡先に請求書を……」
彰さんはどうやら被害額の全てを支払うつもりみたいだが、本間さんは自分も悪かったからと遠慮している。
散らばった猫の絵葉書や写真集を床にかがんで拾い集めている私は、誰が支払うべきかと考えていた。
本間さんはなにも悪くないから払う必要はない。
破壊したのは彰さんだけれど、彰さんが支払うのも引っかかる。
やりすぎ感は否めないが、私を助けるためにやったこと。それなら……私が払えばいいのかな?
貯金額は200万くらいあるから、それで……足りるだろうか……。
その時、お金の心配をする私の目の前を、白黒の体が走り過ぎて行った。
あ……太郎くんのことをすっかり忘れていた。
慌てて立ち上がり店内を見回すと、なぜか興奮状態に陥っている太郎くんが、店の中を駆け回っていた。
並べた椅子やテーブルの上をピョンピョーンと飛んで渡り、崩れた猫タワーやトンネルを飛び越えて、開けっ放しのドアの向こうのキッチンへと走り込んでしまう。