鬼常務の獲物は私!?
「太郎くん、ダメだよ!」
元々この猫カフェの子だったとしても、今はうちの子で、ここは他人の家になるのだから、好き勝手に遊ばせるわけにいかなかった。
集めた絵葉書を投げ捨てて、慌てて太郎くんを追いかける。
でも、そう簡単には捕まらない。追いかければ追いかけるほど、活発に逃げ回るだけ。
また狭いキャリーバッグの中に閉じ込められると分かっているのか、太郎くんは捕まってたまるかといった顔つきに見えた。
肩で荒い呼吸をしながら、私は気合いを入れる。
飼い主として、太郎くんに舐められるわけにはいかない。次こそ絶対に捕獲してみせる!
せっかく直した椅子を倒し、拾い集めたぬいぐるみや写真集の山を崩し、壊れかけの猫用ハンモックの支柱を踏みつけて最後の一撃を与え、私は必死に太郎くんを追いかける。
「本間さん、ごめんなさい! 太郎くんを捕まえたら、ちゃんと片付けますので!」
「いや、日菜ちゃん、もう片付けはいいよ……」
「ダメです、ちゃんとやりま……あ!メニュー表破っちゃった、ごめんなさ……わっ、太郎くん、待ってー!」
「日菜ちゃん、本当にいいから帰っ……」
「きゃあ! グラス割っちゃった、どうしよ……お皿も割れた! あ、太郎くん捕まえ……ああっ、また逃げられた!」
「常務さん、どうか今すぐ日菜ちゃんを連れてお帰り下さい」